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東京高等裁判所 平成10年(ラ)675号 決定

抗告人

株式会社富士信用保証

(旧商号・株式会社山正企画)

代表者代表取締役

正木學

代理人弁護士

太田治夫

主文

一  本件抗告を棄却する。

二  抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一  本件抗告の趣旨及び理由

本件抗告の趣旨及び理由は、別紙「執行抗告申立書」写しに記載のとおりである。

二  判断

(1)  所論は、要するに、別紙「執行抗告申立書」写し添付の物件目録記載1の土地(以下「本件土地1」という。)は袋地にほかならず、利用状況からも、これを同目録記載2、3の土地(以下「本件土地2、3」という。同目録記載の各土地を併せて「本件各土地」という。)と一括売却をすべきであるのに、原決定は、本件土地2、3を切り離してこれらを無剰余と判断したものであるから、原決定には、一括売却に関する民事執行法六一条の解釈を誤った違法がある、というにある。

(2)  よって検討するに、一件記録及び抗告人が当審に提出した証拠(疎甲一から甲三まで)によれば、次の事実を認めることができる。

(ア)  本件各土地(この各土地は、西側から目録の順序に位置している。)は、その北側において公図上公道と接しており(以下、この公道を「本件公道」という。)、その公図上の幅員は三m程度となっている。

(イ)  本件土地1は、そのごく一部に現在使用されていない鶏小屋が存在するものの、その大部分は杉、竹等が繁茂する山林となっている。

他方、本件土地2は、居宅、作業所、物置等の建物の敷地として利用され、本件土地3は、資材置場やビニールハウス用の畑地として利用されている。

(ウ)  現地においては、本件公道のうち、本件土地3の北側部分の幅は、おおむね三m程度となっており、この部分はアスファルト舗装がされている。

本件公道のうち、本件土地2の北側の部分は舗装がされておらず、道幅も狭くなり、周囲から低木や草など生え、道路としての形状が完全に保たれてはいない状況になっている。

本件公道のうち、さらにその西側の本件土地1の北側部分は、さらに道幅が狭くなり、両側の土地(すなわち本件土地1と、道路を挟んだ反対側の土地)が、それぞれ高く切り立った状態になり、道路の形状もやや不明確になっているが、道路自体の存在は失われていない。

なお、本件公道のうち、本件土地1、2の北側部分は、日常道路としてはほとんど利用されていない状況である。

(エ)  本件土地1には、抗告人の根抵当権(債務者・鈴木昭、極度額七二〇〇万円)しか設定されていないが、本件土地2、3には、抗告人の根抵当権よりも先順位で、抵当権者を東京総合信用株式会社とする抵当権(債務者・鈴木幸治、債権額二五〇〇万円)が設定されており、この抵当権については、平成九年一一月三〇日現在の残元本額は一九三一万一八四六円となっており、同日現在正常返済中である。

(オ)  抗告人は、本件各土地と共同担保で、三三八番一の土地(所在は本件各土地と同じ。地目・畑、地積・一二三四m2)、三三九番の土地(所在は本件各土地と同じ。地目・畑、地積五九五m2)について、債務者兼所有者の鈴木昭から本件各土地と同一内容の根抵当権の設定を受けており、後者の2筆の土地については、本件土地1と同様に、他の担保権は設定されていない。

なお、三三八番一及び三三九番の各土地については、抗告人は、競売の申立てをしていない。

(カ)  三三八番一の土地は、本件土地1の西側に接して位置し、本件土地1と同様に、公図上北側において本件公道に接している。

三三九番の土地は、三三八番一の土地のさらに西側に接して位置し、その西側及び南側において公道に接している。三三九番の土地の南側の公道は、その東端において、三三八番一の土地とその南西端の部分で接しており、この公道南東端の点は、公図上、本件土地1とその最西端部分で接している。

(3) 上記の事実によれば、本件土地1は、公図上も現況においても、その北側において公道に接しており、抗告人が主張するような袋地ではないと認められる。確かに、本件公道のうち本件土地1の北側部分は、道路の形状がやや不明確になってはいるものの、それは、日常道路として使用される頻度が少ないことによるものと推認されるから、道路の形状を復元することに障害はないものと考えられる。

また、利用状況をみると、本件土地2、3が建物敷地や資材置場等として現実に一体として利用されているのに対し、本件土地1の現況は、杉や竹が繁茂する山林であって、利用状況は相互に著しく異なり、本件土地1が本件土地2、3と一体として利用されてきたものとは認められない。

さらに、本件土地2、3については、これらの利用状況等を踏まえ、東京総合信用株式会社を権利者とする抵当権が先順位で設定され、その被担保債務は現在も正常に返済されているのであるから、この先順位担保権者の投資の回収という正当な利益も、重要な事情として考慮しなければならない。

以上、一括売却の要否ないし可否の点に関しては、上記のような事情を指摘することができるところ、これらの事情は、抗告人が本件各土地に抵当権の設定を受ける際既に存在したものと推認され、本件土地1を本件土地2、3と一括売却しなくても、抗告人に対し予想できない不利益を与えるものとはいえないから、結局、以上のような諸事情を併せ考慮するならば、本件において、本件土地1と本件土地2、3とを一括売却すべきであるということはできない。

なお、前示のように、抗告人は、本件土地1に接し、かつ、公道にも接する三三八番一及び三三九番の各土地について、最先順位の共同根抵当権を有するのであり、これらの土地の一括売却を期待できる地位にあるといえるから、この点からも、無剰余となることが明らかな本件土地2、3との一括売却が抗告人の利益保護のため不可欠であるということはできない。

(4)  以上のとおりであるから、抗告人の主張は理由がない。

三  結論

よって、本件抗告は理由がないから、これを棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官原健三郎 裁判官岩田好二 裁判官橋本昌純)

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